コラム

なぜ「3D骨格標本」を公開するのか

更新日: 2025年12月5日
なぜ「3D骨格標本」を公開するのか

「骨」は、ふだんの生活ではあまり意識されない存在かもしれません。

しかし、考古学において「骨」は、土器や石器からは見えにくいものの、とても重要な情報を含む遺物です。

このサイトは、主に動物考古学の研究や教育で利用できる3D骨格標本を公開し、より多くの人が「骨から分かること」にアクセスできる環境をつくることを目的としています。

○動物考古学とは?

動物考古学(Zooarchaeology)は、遺跡から出土した動物の骨や貝、歯、角などを分析することで、過去の人間社会と自然環境を復元しようとする分野です。

たとえば、こんなことが分かります。

・どんな動物が食用・労働力・原料として利用されていたのか

・狩猟・家畜飼育・漁撈など、生活の生業活動の特徴

・気候変動や環境変化にともなう動物相の変化

・人と動物との関わり方の変遷(神事・埋葬・ペット化など)

こうした解釈のほとんどは、「これは何の動物の、どこの骨か?」というごく基本的な同定作業から始まります。ここで欠かせないのが、比較のための骨格標本です。

○なぜ骨格標本がそんなに大事なのか

動物の骨は、種類によって形も大きさも異なります。

しかし、遺跡から出てくる骨は、たいていバラバラになっていたり、欠けていたり、焼けて変形していたり、土圧などで潰れていたりします。つまり、「完全な骨格」のイメージを頭の中に持っていないと、同定がとても難しいのです。

そこで研究者は、博物館や大学に所蔵されている現生動物の骨格標本と見比べながら、「これはシカの大腿骨の一部だ」「これはオットセイの下顎骨だ」と判断していきます。

しかし現実には、標本を所蔵している施設が限られている、標本室が遠方にあり頻繁に通うことが難しい、標本の貸し出しには時間も手続きもかかる、学生や初学者にはそもそも標本に触れる機会がほとんどない、などの問題もあります。

このギャップを少しでも埋めたい――その思いから、この3D骨格標本サイトを立ち上げました。

○なぜ「3D」で公開するのか

写真だけでも骨格の形はある程度分かりますが、動物の骨を同定するときには、次のような情報が重要になります。

・立体的な厚みやカーブ

・関節面の角度やつながり方

・左右差・上下方向などの向き

・細かな起伏や筋付着部の形状

これらは、正面・側面・背面など、複数方向から観察してはじめて見えてくる特徴です。

3Dデータであれば、画面上で自由に回転させる、拡大して細部を観察する、実際の骨格の位置関係を全体として確認するといったことが可能になり、「手元に実物がなくても、かなり本格的な観察ができる」環境を再現できます。

○このサイトで目指していること

この3D骨格標本サイトの目的は、大きく分けて3つあります。

研究者・学生の比較資料として

動物考古学や考古学を専門とする研究者、関連分野の大学院生・学部生、自然史系・博物館系の研究者などが、予備的な同定作業や授業準備の際に使えるリソースを提供することを目指しています。

初学者の「骨観察トレーニング」の入口として

動物の骨は最初、みんな同じように見えます。しかし、繰り返し観察することで、このグループは関節面がこういう形をしている、この動物はここが特に太い(あるいは細い)、この骨はこんな向きで体の中に収まっている、といった“感覚”が身についてきます。3D骨格標本は、こうした「見る目」を育てる練習台としても活用してもらえるはずです。

骨格を通じて、動物と人間のつながりを知る窓口として

このサイトは専門家だけでなく、動物や骨、考古学に関心のある一般の方にも開かれた場にしたいと考えています。

○おわりに ― 骨に触れる、新しい入口として

実物の骨格標本には、重さや質感、匂い、保存の手間を含めて、画面越しには伝えきれない魅力がたくさんあります。一方で、3Dデータには、いつでもどこでもアクセスできる、多くの人と共有しやすい、劣化の心配がない、という大きな利点があります。

このサイトが、実物標本と現場の研究を補完しながら、多くの人が骨に親しむための入口になれば幸いです。これからゆっくりと標本や解説を増やしていきますので、どうぞ気軽に、何度でも覗きに来てください。